紀元前6世紀、アテネの植民都市であったイオニア地方のミレトスという町に哲学者タレスが現れた。彼は「ギリシャの7賢人」のひとりでもあり、またアリストテレスはかれを「最初の哲学者(哲学の祖)」とした。
タレスは「万物の根源(アルケー)とはなにか?」という問を発し、自分で「万物の根源は水である」とした。確かに水は生命にはなくてはならぬものではあるが、彼の出した答よりもこの問いかけのほうに大きな意味があったといえよう。
この問いかけは、それまでの神話的思考(ミュトス)から、合理的思考(ロゴス)」への転換をはかる偉大な問いかけであったのであり、この問いかけから哲学や科学が誕生することになる。
この万物の根源をめぐって、自然哲学者たちは様々な答を導き出した。
タレスと同じミレトスのアナクシメネスは「万物の根源を空気(プネウマ)である」とした。かれは日時計の発明者でもあった。
アナクシマンドロスは「万物の根源は無限なるもの(ト・アペイロン)であるとした。
またエフェゾスのヘラクレイトスは「万物の根源を火である」とした。彼は「万物は流転する」という有名な言葉も残している。つまり「火と水が戦って空気となる」という「戦いが生々流転をつくり出す」として「弁証法の祖」とも言われる。
「三平方の定理」で有名なピタゴラスは「万物の根源は数である」つまり「万物は数学的秩序でもって構成されている」とした。かれは音楽や美術の美しさも数学的に解明できるとして、音階や和音の考え方も発見したという。
彼については以前紹介したことがある。
エンペドクレスは「万物は土と水と空気と火からなっている」とし、デモクリトスはついに「万物は原子(アトム)から成り立っている」とした。ここまで来ると近代化学の元素説ときわめて類似していることがわかるであろう。デモクリトスは人間もこの原子から成り立っていて、死ぬと原子が分解してしまって、魂などという者は存在しないと述べているので、最初の唯物主義者であるともいわれている。
この問に終止符を打ったのはアリストテレスである。彼は四原因説を打ち立てたが、これについてはまたいずれ説明することにしよう。
話しをタレスに戻そう。
彼は、この時代にすでに皆既日食(前525年5月28日)を予言したり、またエジプトに行ってピラミッドの高さを測量したというくらい、天文学と測量術に長けていたようである。
こんな話しもある。夜空の星を観察しながら穴に落ちたタレスは、それを見ていた女性にバカにされる。「タレス先生は遠い星のことはわかっても足のもとのことはわからない」と言われた話しは有名である。
また貧乏生活をしていたタレスにあるひとが「哲学なんかしていったい何になるのだ?」と問いかけた。タレスは、その答には直接答えずに、かれは町にあるオリーブの実を絞って油をとる機械を買い占めた。かれは天文学的にその年にオリーブが豊作となることを知っていたのである。案の定そうなった。人びとは油を絞る機械を求めたが、それらはタレスの買い占められていたのである。おかげで彼は大もうけをしたという話しである。まさにベーコンが言う「知は力なり」を身をもって証明したわけである。
中学の数学の教科書には「タレスの定理」というのが載っているらしい。これは「直径に対する円周角は、直角である」というものである。ターレス自身が、円周角上の点と円の中心を結び、2つの二等辺三角形を作って、この定理を証明したために、この名前がついたという。
「アルケー」というギリシャ語は、archeology(考古学)architecture(建築)architype(ユングの元型)などの英語の語源となっている。
posted by mrgoodnews at 23:24|
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