「おもしろ科学体験塾インストラクター」は一応「養成中」の身に一区切りついて新しく出発です。
9月にプノンペンのハイスクールを訪れたときに、ある少女から日本語で話しかけられたということを紹介しました。あれから日本語を教えられるようになれたらと思い立ち、10月から始まる教室を見つけて通い出しました。これがなかなかおもしろいのです。
しかしなんとまあ、気の多いことだと我ながらあきれているのですが……………。
先日の「日本語教師養成講座」ではこんなことを学びました。テーマは「日本語を客観的に見る」です。
まず問いかけがなされた。
「『これはなんですか?』と聞くのと『これはなんでしょうか?』と聞くのとではどういう違いがありますか? グループで話し合いなさい」
というのである。
「日本語はあいまいな表現が多いから、ほとんど同じと答えたほうがいい」とか、「前者の方が丁寧なだけだ」とかいうことがあげられた。
すると講師がこういうふうにいう。
「日本人はこの2つの表現をはっきりと使い分けているのです。でもそれを説明せよというとなかなかできない。『丁寧』とか『婉曲』とかいう言葉で簡単に片づけてはいけません。日本語を教えるためにはこのように客観的に日本語を見ることができなくてはならないのです。生徒から必ずそういう質問が出てくるし、それにあいまいに答えるわけにはいかないのです。」
講師によると「『これはなんですか?』という表現は相手がその答を知っているだろう時に使います。『これはなんでしょうか?』というのは相手も自分も知らない時に使います。」
そういわれてみると確かにそうだ。確かに私たちはこの2つの表現を使い分けている。
次の質問は
「ある読み物に『○○は横浜に生まれた』という文があったが、『○○は横浜で生まれた』のまちがいじゃないのか」
というのであった。
またグループで話し合った。講師はいう「こちらはかなり上級ですね。こちらの方が難しい」と。
「『横浜に生まれた』というのは今も横浜に住んでいるのであり、『横浜で生まれた』というのは今は横浜に住んでいない」というもっともらしい答を私は発表したが、講師に「ほんとうですか?」と改めて聞かれると「確かにそうでないこともある」と気づいてしまう。
「これはこういうふうな例を出して説明したらわかりやすいでしょう。『私は医者の家に生まれた』と『私は医者の家で生まれた』この二つはどう違いますか?」
「なるほど、前者は親が医者をしているのですね。でも後者は必ずしもそうではない。たまたま出産したところが医院だったということもある」と納得した。
つまり「横浜に」というのは、横浜が持っている特別な背景(ハイカラだとかエキゾチックだとか)が含まれるのである。「横浜で」は単に場所を述べているにすぎない
「医者の家に生まれた」というのは、その背景として金持ちの家という意味や代々医者の家系であるという意味を含むのである。
このように、似ている別な表現を出して考えるとわかりやすいこともある。だから生徒から聞かれたら、そういういい実例や悪い実例をすぐに思い浮かべられることが大事で、日本語教師になるためには必須なのであるという。そのためには日本語を客観的に見られる訓練をしなければならない。
次の質問である。これもかなり難問である。
A:田中さん、映画はお好きですか?
B:ええ、好きですよ。
C:映画のチケットが2枚あります。いっしょに……。」
学習者の質問は「A:田中さん、映画がお好きですか?でもいいですか?」
たしかに、こういうケースに「映画がお好きですか?」とはいわない。なぜだろうか?
日本語の助詞の使い方は確かに難しい。とくに『が』と『は』の使い分けは。
講師は「『が」と『は』は一般的にはその違いは説明できない。『映画が好き』『映画は好き』というこの事例のようにできるだけ具体的な表現でないといけない。」ともいわれた。
答は、前者が「好きかどうかわからない」のであり、後者は「好きなようだという情報が得られている」場合に使う。
その他にもこういう質問があった、
「大雨のために高速道路は通行止めになった」と「大雨で通行止めになった」は同じですか?
「財布をどこかに落としてしまいました。」「財布がどこかにおちてしまいました」これは他動詞、自動詞の区別ですね。
確かに日本語を客観的にみることができるようになるためには訓練が必要なようである。これは結構大変そうである。
日本語ができるようになるにはよい教師が必要で、教師の能力によって大きく違いがでてしまうという。
日本語を教える人の資質も大きな影響力があるが、やはり母国語がなにかによっても学ぶはやさが異なってくる。日本語を最も早くできるようになるのは韓国人なのだそうである。韓国語の語順は日本語と似ているところがあるからだそうで、順番はそのままで単語を置き換えればいいからなのだという。ただし日本人が韓国語を学ぶのが早いかというと、必ずしもそうではないらしい。
日本語を教えるということはたいへんだけれど、結構おもしろそうである。