この本は読んでいて面白い本ではない。むしろ読んでみると「どうしてこんなことが起こるのだろう」とやるせなくさせる本である。
この本は世界中に今現に起こっているさまざまな問題をテーマに、それに直面している子供たちを主人公にして描いている。戦争、貧困、飢餓、家庭崩壊、差別、いじめ、老人の孤独から日常生活のちょっとしたすれ違いまで、その中で生きる子供たちを淡々と表現している。
谷川俊太郎は「この子供たちと自分とを比べて、日本に生まれてよかった」と思うだけではこの本を読んだことにはならないとコメントしている。
この子供たちは現代社会の本質に迫るなにかを問いかけてくる。もっとも根深いところの問題を感情を込めずに描き出す。
最近、この種の本をよく生徒に勧められる。その代表は「IT(それ)と呼ばれた子」(デイヴ・ペルザー/著 田栗美奈子/訳 青山出版社)であろう。
この本は虐待の中で育った子が大人になって書いた本である。親に虐待される場面がこれでもかと思われるほどつづいて描かれる。「もっとしっかりしろ」と主人公にいいたくなるほどそれに耐える。
この本は、中学3年の生徒にあげてもらう「感動のメディアカタログ」にも毎年あげられる。何でこの本を読んで感動するのかと思われるほどなのである。
そういえば以前「ヒルベルという子がいた (ペーター・ヘルトリング作 上田 真而子訳 偕成社文庫)や『あの頃には フリードリッヒがいた』(リヒター 上田 真而子訳 岩波少年文庫)を薦められたこともある。これも読んでいてとてもやるせない気持ちになった。
このような本を、生徒たちが「感動した本」としてあげ、人に読んでもらいたいとすすめる気持ちが、私には今ひとつわからない。これらの本を読んで感じたやるせなさをたまらなく誰かと共有したくなるのだろうか。