2006年11月20日

もっとも美しい日本語タイポグラフィー

 私のやってみたいことの一つは、自分の書いた文字で日本語のフォントをつくることである。そのためには漢字も含めると1万字近くをデザインしなければならないのだが、いつかやってみようと思っている。自分の書いた文章を自分の字のフォントでプリントアウトされたそういう本を作ってみたい。これこそ究極のタイポグラフィーではないかと思う。
 ところでそれをできるソフトウェアが残念ながら見つからないのである。どなたかご存知だったらお教え願いたい。

 私は30年前に写真植字をやっていた関係で、日本語タイポグラフィーにとても興味を持っている。写植をやっていた頃は文字を見たら、これがどこの活字、和文タイプ、写真植字のメーカーのものかをすぐに判別することができた。
 もっともその特徴が出ているひらがなの文字は「な」である。ひらがなの「な」を見たらすぐにそのフォントがどこのものかをいいあてることができた。デジタルフォントになってからはあまりにフォントが多すぎてわからなくなってしまったが……………。

 私の知っているフォントの中で、もっとも美しいフォントは「石井中明朝体オールドスタイル(MM-A-OKL)、中村征宏というタイポグラファーのデザインした「ナール」「ゴナ」であると思う。いずれも写研の文字である。ただしきわめて残念なことに写研の文字は実は未だデジタル化していない。
 30年前に私が使っていた写植機はモリサワのものだったので、この写研の字が使えなかった。とても悔しい思いをしたものである。当時文字盤をワンセット買うには一書体10万以上したが、モリサワの写植機を持っているものには書体を売ってくれなかった。ただしモリサワの写植機に写研の文字盤は補正すれば載せることができたから、無理をすれば手に入らないことはなかったのである。
 あのころは写植機と写植書体は写研が圧倒的なシェアを持っていた。モリサワの書体では特にデザイン文字の分野でほとんど相手にされなかったくらいである。
 ただモリサワは自社の保有するフォントをデジタル化することに積極的であったから、今でもフォントメーカーとして存続しているが、写研は自社のフォントをデジタル化しなかったが故に、時代に乗り遅れた感じである。
 私が始めて Macintosh を購入した1993年の MacOS「漢字トーク7」 の明朝体標準フォントはモリサワの「リュウミン」という書体であった。これが写研の石井明朝によく似ていたことを懐かしく思い出す。

 しかし、あの写研の美しいタイポグラフィーがパソコンのフォントとして使えないことは実に悲しいことだと言わなければならない。

石井明朝 私がもっとも美しいフォントだと述べた「石井中明朝体オールドスタイル」は石井茂吉という写研の創業者がデザインした文字である。特に縦組みの日本語の本文書体として、数ある明朝体のなかでこれほど優美で流麗で完成度の高い書体はないと言ってよい。新聞広告のコピーにも「詰め印字」された横組み書体がよく使われた。

 「ナール」と「ゴナ」はいずれも中村征宏というタイポグラファーがデザインした文字である。

ナール 「ナール」は最初「細丸ゴシック系」の文字として発売された。後に「ナールD」や「ナールM」などいろいろなウェイトの文字が売り出されるが、これも優美流麗な文字である。




ゴナ 「ゴナ」は最初は「極太ゴシック」の文字「ゴナU」から発売され、のちに「ゴナE」「ゴナO」などのファミリーが追加される。これは本文書体というよりも広告や中吊りポスターなどの文字に使われる。

 この石井茂吉と中村征宏は天才的な日本語タイポグラファーだと思う。このふたりをしのぐタイポグラファーは未だいないと言ってよいだろう。

 
posted by mrgoodnews at 00:40| Comment(0) | TrackBack(0) | ことば | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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