その本は「『みんなの意見』は案外正しい」(ジェームズ・スロウィッキー著 小高尚子訳 角川書店)。原題は「The Wisdom of Crowds」James Syrowicki である。
本の中味を紹介するには、この本の帯や表紙に書いてあることをそのまま紹介したらいい。そこでこの本の表紙にはこう書いてある。
スペースシャトル墜落事故原因を誰よりも早く察知したのは調査委員会ではなく、株式市場であった………。
インターネット検索エンジンのグーグルが何十億というウェブページから、探しているページをピンポイントで発見できるのも、精密な選挙結果の予測ができるのも、株式市場が機能するのも、はたまた午前2時に思い立ってコンビニで新鮮な牛乳が買えるのも、それはすべて「みんなの意見」つまり「集団の知恵」のたまものである。一握りの権力者たちが牛耳るシステムの終焉を高らかに謳い、きたるべき社会を動かす多様性の底力を鮮やかに描き出す、全米ベストセラーがついに上陸!
この本にはこのような「集団の知恵」の例がふんだんに取り上げられている。
たとえばこんな例である。
1958年社会科学者のトマス・シェリングはイェール大学の法学性たちを対象に簡単な実験をおこなった。彼は学生たちにこういう状況を思い浮かべてもらった。ニューヨーク市で誰かと会わねばいけない。dこでその人に会えるかわからないし、会う前にその人と話す手段もない。さてどこへ行けばいいのだろうか?
いい応えなんかなさそうな質問である。ニューヨーク市は大都会で、待ち合わせに良さそうな場所はたくさんある。それなのに大多数の学生たちはまったく同じ場所を選んだ。グランドセントラル駅の案内状である。
次にシェリングは問題を少し複雑にしてみた。何日にその人と会わなくてはならないかは知っている。ほとんど全員がそういう場合には12時ちょうどにいくと応えた。
つまりイェール大学の法学部の学生二人を、巨大都市ニューヨークのあちらの端とこちらの端に落としたとしても二人がみごとに出会えて昼ご飯を食べる可能性はけっして低くないというわけである。
たとえば被験者を二人ひと組にわけ、「表」か「裏」かを選ばせた。目標は自分のパートナーと同じ選択をすることだったが、42人中36人が「表」を選んだ。
ほかにも16マスが書かれた紙を見せ、人びとにそのうち一つにチェックをつけさせた(同じグループの人全員が同じマスにチェックしたら、報酬がもらえることになっていた。)60%が一番上のマスをチェックした。
どうすればこんなことが可能になるのであろうか? シェリングは、多くの場合には人びとの予感が収斂する、ランドマークのような目立つ焦点が存在していると考えている。今日、こうした焦点は「シェリング・ポイント(暗黙の調整)」として知られている。
そういえば、こんなこともそういう例になるかもしれない。最近の選挙の開票速報は、出口調査のデータがあると、テレビ局は開票率が1%でも「当選確実」を出してしまう。
こんな不思議な「集団の知恵」の例がこの本にはたくさんある。また次のチャンスに他の例を紹介することにしよう。