彼は1733年にリチャード・ソンダースという名前で、はじめてカレンダーを出版した。以後25年間出していたが、そのカレンダーは一般に「貧しいリチャードの暦」といわれていた。わたしはそれを面白くてかつ役に立つものにしようとして一生懸命につくったので、次第に需要が増え、年々1万部近くも売れるようになり、ずいぶん儲かった。
これが、この地方の周囲で暦のない所がないくらい普及していき、みんなに読まれるようになったのを見て、わたしは、暦はほかの本をほとんど買わない一般の人にも、教訓を与えるのにちょうどよい手段となると考え、暦の中の特殊な日と日との間にできる小さな余白をことわざのような文章で埋めた。その文章は主に富を売る手段として、勤勉と節約を説き、そうすることによって徳も身に付くようになるのだ、と説いた。というのは一例として「空の袋はまっすぐには立ちにくい」ということわざも使われているように、貧乏な人間ほど常に正直に暮らすのは難しいのである。
「フランクリン自伝」鶴見俊輔役 旺文社文庫
つまり、格言入りのカレンダーを一番最初につくったのはフランクリンの発明だというのである。
その格言にどんなものが載っていたか、英語訳をつけながら紹介しよう。
『貧しいリチャードの暦』から
From "poor Richard's Almanac", 1733~1758
人とメロンは中味がわからぬ。
Men and melons are hard to know.
見くびってもよい敵はない。
There is no little enemy.
恋愛のない結婚があるところに、結婚のない恋愛もあるだろう。
Where there's marriage without love, there will be love without marriage.
金持ちがつつましく暮らす必要がないように、つつましく暮らせるものは金持ちになる必要がない。
He that is rich need not live sparingly need not be rich.
彼は富を所有しているのではなく、富が彼を所有しているのである。
He does not possess wealth,it possess him.
3人の間の秘密は、そのうち2人が死んで初めて守れる。
There may keep a secret, if two of them are dead.
結婚前には目を大きく開けよ。結婚したら、半分閉じよ。
keep your eyes wide open before marriage, half shut afterwards.
貧乏だったことは恥ではない。しかし、これを恥じることは恥である。
Having been poor is no shame, but being shamed of it is.
とこんなところがあげられる。「時は金なり」といったのもフランクリンではないか。すべてがフランクリンの創作というわけではないが、古いことわざにヒントを得たばあいにも、彼の工夫が加わっているという。