「根付の国」 高村光太郎
頬骨が出て,唇が厚くて,眼が三角で,名人三五郎の彫った
根付(ねつけ)の様(よう)な顔をして,
魂をぬかれた様にぽかんとして
自分を知らない,こせこせした
命のやすい
見栄坊な
小さく固まって,納まり返った
猿の様な,狐の様な,ももんがあの様な,だぼはぜの様な,
麦魚(めだか)の様な,鬼瓦の様な,茶碗のかけらの様な日本人
高村光太郎は,詩人であり,彫刻家である。「智恵子抄」はあまりにも有名である。
この詩は,明治44年1月に発表されたもので,長い外国生活から帰った直後に書かれたという。そんなかれには日本人がこのように見えたらしい。
根付は,印籠や煙草入れなどを帯に挟んだとき,落ちないように,それらの紐の端に付ける小彫刻や珍石などのこと。今なら携帯のストラップの端に付けるグッズにあたるだろう。
名人三五郎は,根付彫刻の名匠といわれた人。ただし、ほかの詩集には「名人周山」とでていた。
ももんがあは,リス科の動物モモンガのこと。
なんだか、確かにおもちゃのようで、中国の付けたしのほんの端っこの文化・・という印象でした。ああ、光太郎は、西欧と中国、エジプトなどの圧倒的な存在感にたいして、自分の国のちっぽけな、文化の象徴に、マイノリティーとしての自分を感じていたのだと、強く思いました。
日本の展示品が少なく小さいものが多い理由は、単にエジプトや中国と違い、日本がイギリスの盗掘に遭っていないからってだけなんだがなぁ。笑