テレビで黒曜石の話をしていた。この石は黒光りのする堅い石で、昔は弓矢の鏃やいろいろな道具に使われていたというものである。
このテレビを見ていて、私の学生時代の北海道遊説旅行を思い出した。
私は学生時代に弁論部というサークルにいた。その話はまたいずれ書きたいと思うのだが、大学1年の時に北海道遊説旅行なるものに参加し、北海道の各都市で遊説(駅頭で演説をする)をしてまわった。いまから40年ほど前のことで北海道の均一周遊券が学割で5000円だった時代である。
その旅行の途中、時間調整か何かで石北本線の白滝という駅でたまたま降りて町に出た。さびしい町で何にもなかった。駅前のパチンコ屋が大音響で流していたバーブ佐竹の「女心のうた」が耳に残っている。
町中を散歩していたら、道路の砂利が目に入った。黒光りのする黒曜石が一面に敷き詰められていたことを発見したのである。
一緒に行った仲間たちにそれを指摘したら、彼らは別に何の興味も示さなかったが、わたしはそこからいくつかを拾っておみやげにしようともって帰った。あとで札幌のおみやげ店によったら、この黒曜石が土産物として売られていたのを発見した彼らはとても悔しがっていて、わたしは優越感に浸ったものである。
あとで調べたところによると黒曜石は全国のいくつかの所に産地がある。信州の霧ヶ峰高原や和田峠、伊豆天城、箱根などにも産地があるという。北海道では十勝石といわれているそうである。
だいたい黒曜石を砂利代わりの敷石にするなんて、堅くてとがっているので、車のタイヤにはいいはずがないと思い、あの記憶は単なる幻想だったのかもしれないと不安になった。
そしてあれから30年たって旭川を訪れたときに、友人から車を借りてオホーツク海を見に行く途中、その思い出の白滝にたちよった。
記憶にあった町とかなり様変わりがしていたのだが、わたしはさっそく駅前の駐車場にしかれていた砂利の中を探してみた。すると細かく砕いてあるが、たしかにその砂利の中に黒曜石が混じっていたのである。
あの記憶はまちがっていなかったというわけである。
今はこの町は黒曜石の産地として売り出そうとしていて、「白滝黒曜石ジオパーク構想」なるものを計画中であるという。