わたしたちは「どこへかえるの? ここはいよさんのうちだよ。ほら、お父さんの写真もあるし、ここにあるものはみないよさんのものだよ。」というのだが、そういうと、いよさんはあたまをかかえて、ともすると「こんなに頭が悪くなってしまって、もう生きている意味がない。死んでしまいたい」みたいなことをいう。
いよさんが、そういうサイクルに入らないように、そういい出しそうになると、私たちがすることはいくつかある。
ひとつは、おいしいお菓子、特にいよさんの好物を出して、「そんなこといわずにこれでも食べて元気を出そうよ」と言う。
「ねえ、おいしいでしょう。こんなにおいしいものを食べられるなんて幸せだよね」というと、いよさんもすぐに「死にたい」なんて言おうとしていたことをわすれてくれるのである。
いよさんのお菓子好きと食欲に救われるのである。
もうひとつ有効な手だてがある、それはジグソーパズルである。
10年ほど前には、よく父と母と子どもたちで400ピースとか600ピースほどのジグソーパズルを、夜を徹して完成させたものである。
しかし、いまのいよさんにはそんな複雑なことをするだけの根気も集中力もない。100ピースほどのジグソーもほとんど子どもたちがやってしまって、いよさんはそれを見ているだけになってしまった。
それで、いよさんが単独でできるジグソーパズルを探してきて、やらせることにした。

絵だけの20ピースものができるかどうかの分かれ目であることが、判明したので、あれこれと探してきてはいよさんとすることにした。
完成すると「できた!」といって、単純に喜んでくれる。その喜び方がとてもかわいく、いとおしいのである。