東京のラジオ局が、深夜の放送で大胆な実験をしてみた。超高層ビルのサテライトスタジオからこう呼びかけるのだ。
「この放送を聞いていて、このホテルの見える人、懐中電灯を持って、家から出てくれないか。そんでさあ、それをつけてふってみてほしいんだよ。新宿の方に向けて」
最初はスタッフも半信半疑だった。しかし、大都会のあちこちから、チカチカ、チカチカ、懐中電灯の反応が現れ始めた。失恋した浪人生、親と話し合えない中学生、目の覚めてしまった中年男、いずれも、ラジオしか語り合う相手のいない人たちだった。
20数年前に日本放送の「オールナイトニッポン」で実際にあった話がヒントになっている。深夜放送の愛好者である黒井千次が、創作を加えて現代の孤独を訴えた短編であった。
そういえば私が「深夜放送」に親しんでいたのは今から40年前で、「パックインミュージック」「オールナイトニッポン」「セイヤング」など華やかなりし時だった。